【新人看護師の事件メモ①】オペ出し直前、転倒事件

新人看護師の事件メモ

時刻は朝の8時50分。

ズサーっと音がした。

さっきまで右手に持っていたはずの板(バインダー)がない。

私より先の、3メートルくらい先だろうか。

廊下の向こうへ滑っていったようだ。 

私の左側にある病室から先輩の声が聞こえる

「大丈夫!?」

一瞬、何が起きたか分からなかった。

ただ、なぜか膝と肘と胸の辺りがじんわり痛い。

病室から先輩が飛び出してきた。

「え、どうした?大丈夫?顔面打った?」

心配そうな顔だった。

そこでやっと気づく。
視点が、やけに低い。

ーーあ、私……転んだんだ

次の瞬間、思い出した。

ーーやばい。
9時、オペ室入室。

「大丈夫です!オペ出し行ってきます!」

オペ看に怒られる。
その一言だけが頭を支配した。

膝も肘も痛い。

たぶん他にも、痛い。

でも、構っている暇はない。
恥ずかしさを振り切って、私は走った。

もちろん、吹っ飛ばした板の回収も忘れない。

進行方向に吹っ飛んでくれたことがせめてもの救いだ。

いっそ笑ってくれたらよかったのに…!

そんなことを思いながら急いでエレベーターのボタンを連打した。

連打したところでエレベーターが早く来ることはない。

でも押してしまう。

「早く早く!」

オペ室の前に着いたのは、8時59分。

自動ドアが開く。

オペ看がこちらを見る。

そして、一言。

「遅い。」

その瞬間、膝よりも、胸の方が痛かった。

あの頃の私は、転ぶほど余裕がなかった。

それでも、あの日もちゃんと患者さんを送り出した。

新人看護師の、小さな全力だった。

新人看護師の事件メモ①

犠牲者、私のプライド。

新人看護師の事件メモシリーズ
▶︎ 第1話:オペ出し直前、転倒事件
▶︎ 第2話:冷水の洗礼事件

▶︎ 第3話:ナースコール、もしもし事件

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