これは、私がまだ1年目の春の出来事だ。
「今日は入浴介助に一緒に入りましょう。」
先輩から今日の仕事を伝えられる。
正直、入浴介助は看護学生の実習でも
やっていたことだ。
なので、緊張もしていなかった。
「わかりました!」
大きく頷く。
創傷処置がある。
誰にどんな処置が必要なのか、
頭の中で思い返していた。
入浴介助用に装備を整える。
防水エプロンと長靴だ。
時間になったので、患者さんのお迎えに行く。
「シャワーに行きますよ〜」
そんな、のんびりした朝の風景だ。
ーー今日は、穏やかに終わりそうでよかった。
患者さんをストレッチャーに移乗させ、
浴室へ移送する。
いざ、入浴介助の開始だ。
今日は午前中に10人の患者さんの入浴介助だ。
ーー効率よく、かつ安全に作業を行わなくては。
そんなことをシミュレーションしていた。
「きゃあ!!」
先輩の、甲高い叫び声だ。
私が持っていたシャワーのノズルが先輩の方を向いている。
しかも、水圧は最大。
まだ、水温を確認していない。
「早く止めて!」
そんな先輩の声にハッとした。
ーーやらかした!!
「すみません!」
さっきまでの穏やかな朝は、完全に終了した。
近くにあったタオルを先輩に渡す。
手が、若干震えていた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!
本当にすみません!ノズルの位置見てませんでした…」
ーー終わった。
そう、思った。
数秒の沈黙が続いた。
バクバク…
自分の心臓の音だけが聞こえていた。
しばらくのあと、
「……着替えてきます。」
いつもは優しい口調の先輩の
冷水よりも冷たい視線に
心臓が、キュッとした。
新人看護師の、小さな全力は、
ときどき冷たい水を呼ぶ。
新人看護師事件メモ②
犠牲者:午後の病棟の空気
新人看護師の事件メモシリーズ
▶︎ 第1話:オペ出し直前、転倒事件
▶︎ 第2話:冷水の洗礼事件
▶︎ 第3話:ナースコール、もしもし事件


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