うちの病院では、ナースコールは新人が持つ風習がある。
ナースコールは電話ではない。
患者さんからの救難信号だ。
いつ鳴るか分からないのだ。
私たちの時間は、関係ない。
ーーあまり鳴ってほしくないんだよな。
そんな思いも、関係ない。
ナースコールが鳴る。
ーーきた。
「どうされました?」
今日もピッチ越しに対応する。
ナースコールの対応に、慣れてきた頃。
その日はやけに、よく鳴っていた。
「ーー今から伺いますね。」
そうピッチを切った瞬間だ。
また、ナースコールが鳴っている。
咄嗟に通話ボタンを押して
ナースコールに出る。
「はい、もしもし?」
ーーこれ、ピッチだった。
すぐに言い換えた。
「あ、いや、どうされました?」
ピッチの向こうは一瞬、沈黙が流れた。
「…あー、点滴終わりました」
今から伺うことを伝え、コールを切る。
ピッ。
「ふふっ電話かよ。」
その瞬間、隣から笑い声が聞こえた。
同期と一緒に作業をしていたのだ。
「うるさいな〜、しょうがないじゃん、咄嗟だったんだから!」
同期に聞かれ、そんな言葉が出てくる。
「ちょっと行ってくる」
恥ずかしさがあった。
同期から逃げるようにすぐに病室に向かった。
入室してすぐだ。
患者さんと目が合った。
「はは、電話みたいだったね」
「ですよね、すみません。つい…」
急いで点滴を取った。
早く退室したかったのだ。
ナースコールは電話ではない。
対応は難しい。
何を言われるか分からないからだ。
常に、気を張っている。
はず、だった。
新人看護師の口は、
ときどき、慣れた言葉に逃げる。
新人看護師の事件メモ③
犠牲者:看護師としての「プロっぽさ」
新人看護師の事件メモシリーズ
▶︎ 第1話:オペ出し直前、転倒事件
▶︎ 第2話:冷水の洗礼事件
▶︎ 第3話:ナースコール、もしもし事件


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